降り出した雨はどんどんと勢いを強め、窓を叩いている。
記憶の糸をたぐれどもたぐれども、その先は五里霧中。捜索範囲を広げ、しらみつぶしに探していくよりほか手立ては残されていない。
鉄の引き出しから離れ、探す。
可能性の高低など気にしている余裕はない。とにかく探す。棚の奥、倉庫、ケースの中。ありとあらゆる場所をくまなく探す。這いつくばり、埃まみれになりながら、探す。ひざは擦り剥け、肘は黒くすすけているが、探す。
一心不乱に探した。外はすっかり真っ暗になっていた。それでも見つからない。自分の無力さに悔しさが込み上げてきた。僕の心に灯った使命感の炎はすっかりその勢いを弱め、降りしきる雨に消されてしまいそうだった。
「もう一度あの場所へ戻ろう」
肩を落とし、意識朦朧としながらも最後の気力を振り絞り、鉄の引き出しへ向かう。一段、一段、ゆっくりと開けていく。鉄と鉄が擦れる無機質な音が繰り返し響く。一縷の願いは、虚しく不気味に響く音の中に消えていった。この日の捜索はこれで打ち切りにし、とぼとぼと家路についた。
翌朝、雨は嘘のように止み、僕の気持ちとは裏腹に鬱陶しいほどに晴れ渡っていた。
店に出勤し、歯切れの悪い朝の挨拶を済ませ、デスクにつく。気が重かったが昨日の事を本店のボスに報告した。半分自暴自棄になりながら、捜索物が未だ見つかっていない事と、代替の案を提案するメールを送った。PCの画面から顔を上げると例の鉄の引き出しが怪しく構えている。メールの返事が来るまでの間に、ダメでもともと、もう一度鉄の引き出しを確認することにした。
一段目、当然ない。
二段目、あるはずもない。
あるのは重要な備品だけだ。
三段目。
「うそだろ」
全身に鳥肌が立ち、背筋が凍った。一瞬思考が停止し、その場に立ち尽くす。少し間をおいて、悲鳴にも似た叫び声をあげた。店内にいた同僚が駆け寄ってくる。捜索物が見つかり喜ぶべきタイミングであるはずなのに、喜べるはずもない。おかしい、絶対におかしい。ここにあるはずがない。あんなに何度も探したこの場所にあってはならない。寒気がする、喉が渇く、視界が狭くなる。パニック状態に陥った僕を落ち着かせようと同僚が水を手渡してきたが、喉を通らない。引き出しを開けた瞬間に何かに取り憑かれたに違いない。妖気は放出され続けている。塩だ、塩が必要だ。念仏を唱えろ。引きずり込まれる。耐えろ、耐えなければ闇に飲み込まれる。
どの位の時間が経ったのだろう。
戻ってくる意識の向こうで、僕を呼ぶ声がする。
そうか、勝ったんだ。
僕は、快適にそよぐ冷気の中、ゆっくりと目を開けたのだった。
ありがとう、霧ヶ峰。
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はい、というわけで2話にわたってお送りしました。
結論から言うと、妖気を纏ったリモコンが捜索初日は出かけており、二日目に何食わぬ顔で戻ってきていた。ということです。これ以外に考えられません。ようやく気持ちも落ち着いて、見つかって良かったと単に思う事が出来ますが、怪奇現象を体験した記憶は後味のあまり良いものではないなと感じています。
奇跡体験アンビリモコン。
伸でした(@^^)/~~~